東北大学
東北大学大学院教育学研究科・教育学部 Graduate School of Education/Faculty of Education, TOHOKU UNIVERSITY

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報告書(海外学会発表渡航費援助事業)


海外学会発表渡航費援助事業は、東北大学教育学部同窓会より東北大学大学院教育学研究科に拠出された基金によるもので、教育学研究科の大学院生が外国の大学や研究機関等において学会・シンポジウムでの研究発表を行う場合に、そのための渡航費用を援助し、国際的な研究活動を促進することを目的としたものです。(詳細は募集要項をご覧ください。)
以下には、教育学部同窓会より海外学会発表渡航費援助を受けた方々の報告書を掲載しています。(※報告者の所属、学年等は学会発表時のものです。)
報告書_海外学会発表渡航費援助事業_東北大学教育学部同窓会

2019(令和元)年度

浅沼 千恵 / 人間形成論コース・博士課程後期
学会名:
2019中央研究院明清国際学術研究研討会
期間
2019年8月28~30日
渡航先:
中華民国・台北
タイトル名:
中国語:近代中国衛生教育的導入和日本的影響
英訳:The Introduction of Hygiene Education in Modern China and the Japanese Influence on it
学会の成果:
今回の発表において近代中国における「衛生」教育の出現と展開について、教育史の角度からその導入過程を明らかにしました。この発表における史料運用と解読については、司会者のみならず、中央研究院にいる世界トップクラスの中国研究者達にも高く評価されました。また、各国からやってきた中国近代史研究者に注目され、東アジアにおける近代「身体」の形成について共同形成を行うという提案がありました。さらに、日中両国の衛生教科書の比較を通して、近代中国の衛生教育は明治日本に強く影響されたことを明らかにし、中国語の先行研究における衛生学概念と衛生教科書についての誤読を修正することもできました。ご援助をいただき心より感謝申し上げます。

2018(平成30)年度

長谷川 素子 / 人間発達研究コース・博士課程後期1年
学会名:
The 20th World Congress of Psycho-Oncology and Psychosocial Academy
期間
2018年10月31~11月2日
渡航先:
オランダ・ユトレヒト
学会の成果:
本大会において、“Family Member’s Behaviors to Terminally Ill Cancer Patients with Communication Difficulties”(意思疎通のとりづらい終末期がん患者に対する家族の関わりの研究) という題目でポスター発表を行いました。
今回の発表の成果として、2点挙げられます。1点目は、自分の研究に興味関心を持ってくださった研究者がいらっしゃり、議論を通して自分の研究における今後の課題や新しいアイデアを得ることができたことです。2点目は、国際学会参加や発表の場における、自分の英語スキルとプレゼンテーションスキルの向上を図る必要性を痛感し、今後の国内外の発表に挑む上でのスキル向上の具体的な課題が明確になったことです。
本事業により、このような貴重な経験を積むことができましたことを心より感謝申し上げます。

2017(平成29)年度

松本 恵美 / 人間発達研究コース・博士課程後期
学会名:
T18th European Conference on Developmental Psychology 第18回ヨーロッパ発達心理学会
期間
2017年8月29日~9月1日
渡航先:
オランダ・ユトレヒト
タイトル名:
Gender and age difference of interpersonal acceptability in children and adolescents.
学会で発表した内容:
第18回ヨーロッパ発達心理学会に参加し,”Gender and age difference of interpersonal acceptability in children and adolescents.(児童期・青年期における対人受容性の学年差および性差に関する研究)”という題目でポスター発表を行いました。私の発表はポスター発表の1日目であり時間帯もお昼休憩と重なっていたため、ポスター会場内には多くの研究者が集まっており、活発な討論が行われていました。国際学会への参加は初めてでしたが,各国の参加者から様々な質問や助言をいただき,自らの研究の発展につながる多くの知見が得られました。いただいた意見の中には,国内の学会等でいただいた指摘と似た内容のものもあれば,国外ならではの内容の意見もあり,自身の研究の課題を明らかにすると同時に新しい展開について考えを深めることができました。また、初めて英語で研究発表を行ったため、英語でプレゼンテーションを行う難しさを実感しました。研究面だけでなく自身の英語力やププレゼンテーション力を見直す良い機会になったと感じています。この経験を活かし、今後も積極的に国際学会に参加していきたいと思っております。貴重な機会を頂きました海外学会発表渡航費援助に、心より感謝申し上げます。

高木  源 / 臨床心理研究コース・博士課程後期
学会名:
2017 International Conference: Crossroads of Couple and Family Psychology
期間
2017年6月22-24日
渡航先:
IL, Chicago, Evanston
タイトル名:
The effects of “Well-formed goal” and “Exception” question developed by solution-focused brief therapy: Aimed to develop SFBT worksheet.
学会で発表した内容:
様々な心の問題が指摘される現代社会では、臨床心理学的な支援の重要性が高まっています。しかし、臨床心理学が蓄積してきた知見にアクセスするためには障壁があります(例えば、即時的にアクセスできないこと、スティグマがあること、支援提供者が少ないこと等)。
私は今回の大会で、専門知識を持たない人が一人で実施可能な心理的支援ツールの開発を目指す研究の一部を、「解決志向短期療法に基づくウェルフォームド・ゴールおよび例外探しの質問の効果について―解決志向短期療法ワークシートの開発を目指して―」というタイトルで、ポスター発表を行いました。
今回の発表の成果として、第一に、海外の研究者と議論することができ、今後の研究の方向性を考える上で沢山のアイデアを得ました。第二に、海外での家族に関わる心理学の動向について把握することができました。特に国際的な社会問題の解決に取り組んでいる点が印象的で、私自身より広い視点で社会に貢献できる研究に取り組もうと思いました。
最後になりましたが、今回の経験から、今後の研究的な取り組みを考えていく上で新たな指針を得ることができました。本事業により、このような貴重な経験を得ることができたことを心より御礼申し上げます。

坂本 一真 / 臨床心理研究コース・博士課程後期1年
学会名:
International Conference: Crossroads of Couple and Family Psychology.
期間
2017年6月22日6月24日
渡航先:
Evanston, Illinois, USA.
タイトル名:
Grasping the messages of “Ijiri” pragmatically
学会で発表した内容:
本学会では、近年の若者のコミュニケーション方略の1つである“いじり”に関する研究として、Grasping the messages of “Ijiri” pragmaticallyという研究題目でポスター発表を行った。いじりとは、"他人をもてあそんだり、困らせたりすること”を指し、受け手に不快感を与えいじめとして機能することもあれば、受け手に冗談として受容され所属感の源泉として機能することもあるとされる。コミュニケーションの中で生じるいじめ問題の防止に向けて、いじりというコミュニケーション行為のリアリティを掴むことが、本研究の主眼であった。本研究では、インタビュー調査により得られたデータをKJ法により分類し、いじり行為の類型化を試みた。いじりに着目した研究は本邦において未だ少なく、本研究の知見は今後のいじり研究の基盤となると考えられる。発表当日は、多くの海外の研究者に関心を持っていただき、活発な意見交換をすることが出来た。また、今後の研究を進める上での示唆を得ることも出来、大変意義のある発表となった。
このような貴重な経験は、同窓会の海外学会発表渡航非援助事業の後押しによって得られたものであります。心より御礼申し上げます。

2015(平成27)年度

王   暁 / 臨床心理研究コース・博士課程後期2年
学会名:
The 18th National Academic Congress of Psychology 第18回全国心理学学術会議
期間
2015年10月15日~10月18日
渡航先:
中国・天津
タイトル名:
An exploratory research on over-adaptation in junior high school students
学会で発表した内容:
中国では「よい子」問題が存在しているものの,「よい子」を主題として扱う研究は始めてばかり,理論や実証的研究はまだ行われていない現状があります。
一方,日本では,「よい子」を適応という側面から捉えた概念に「過剰適応」があります。本発表で,日本の「過剰適応」概念と尺度を用い,中国における中学生の過剰適応傾向と,過剰適応とストレスモデルの関連について報告しました。
その結果,まず,過剰適応尺度の中国版を作成し,信頼性と妥当性を検討しました。次,男性より女性の方が過剰適応傾向が高く,学年差が見られませんでした。最後,過剰適応とストレスモデルの関連を検討したことにより,過剰適応は非適応的な側面だけでなく,適応的な行動を支える側面もあることが示唆されました。
今まで,過剰適応は日本において独自の概念と認識され,日本と海外を比較した実証研究はほとんどありません。今回の発表を通して,多くの中国の方々に「過剰適応」という概念に対して関心を持っていただきました。中国の過剰適応実態を把握することができ,今後の日中比較を進める上で大きな知見を得ることができました。
本研究科・学部同窓会の支援に基づく海外学会発表渡航費援助によりこのような貴重な経験が得られることを心よりお礼申し上げます。

2014(平成26)年度

張 新荷 / 臨床心理研究コース・博士課程後期2年
学会名:
The 17th National Academic Congress of Psychology 第17回全国心理学学術会議
期間
2014年10月10日~12日
渡航先:
中国・北京
学会の成果:
未曾有の災害に見舞われた東日本において、復旧・復興がさけばれ、雇用の重要性が再認識されている現在、日本のこれまでの雇用のあり方や人材育成のあり方が問われているといえる現状があります。
私は今回の大会で「夫婦間葛藤に対する青年期の子どもの反応に関する日中比較研究」をタイトルとして、口頭発表を行いました。
今回の発表の成果として、第一に、今まで日本で行った研究の成果を初めて中国で紹介することができ、中国人研究者と議論したりすることで、これからの研究のヒントが得られました。そして自分の研究結果を報告すると同時に、日本の研究や自分の日本での体験を交えて紹介したりすることで少しでも日本のことを伝えられたと思います。第二に、今回の学会は中国で一番大きな学会であり、心理学の多くの領域の研究成果が発表され、研究の動向など中国心理学の現状をより把握することができました。
最後に、本事業により、貴重な経験を積むことができましたことを心よりお礼を申し上げます。

進藤 将敏 / 人間発達研究コース・博士課程後期
学会名:
International Society for the Study of Behavioral Development (ISSBD) 2014
期間及び渡航先:
2014年7月8日~7月12日 上海(中国)
タイトル名:
Development of construction of drawing in young children: From the perspective of spatial cognition and switching of reaction(幼児における描画構成の発達:空間認知と反応の切り替えの観点から)
学会で発表した内容:
本学会では、幼児期における描画発達に関する研究として“Development of construction of drawing in young children: From the perspective of spatial cognition and switching of reaction(幼児における描画構成の発達:空間認知と反応の切り替えの観点から)”をポスター発表しました。従来の研究では、描画表現が年齢と共に変化する現象は捉えられてきましたが、その発達が何によってもたらされているのかは明らかにされてきませんでした。私の研究ではそのメカニズムに迫る目的から、描画発達への寄与が想定される認知的要因との関連を実験によって検証しました。このような試みは、子どもがどのような認知能力を発揮して絵を描くのか、あるいは何を意識しながら絵を描けるようになるのかといった、描画発達に関する新たな知見を提供すると考えられます。発表当日は、多くの海外の研究者に関心を持っていただき、活発な意見交換をすることができました。また、今後の研究を進める上での示唆を得ることもできたので、参加して本当に良かったと感じています。このような貴重な経験は、同窓会の海外学会発表渡航費援助事業の後押しによって得られたものと思います。心よりお礼申し上げます。

2012(平成24)年度

高橋 保幸 / 教育政策科学研究コース・博士課程後期3年
学会名:
International Seminar Vocational education and training in a comparative perspective.
期日:
2012年8月23日~8月25日
タイトル名:
New Recognition and future ways of the employment support system:Focusing on the Great East Japan Earthquake and the vocational training(雇用支援制度の再認識と今後のあり方―東日本大震災と職業訓練に着目して―)
学会で発表した内容:
未曾有の災害に見舞われた東日本において、復旧・復興がさけばれ、雇用の重要性が再認識されている現在、日本のこれまでの雇用のあり方や人材育成のあり方が問われているといえる現状があります。
本発表では東日本大震災後の失業状況を背景とし、失業等による職業移行がスムーズにできる社会に必要なものは何かをテーマに、東日本大震災の概要、復旧・復興状況を含めて、日本の職業訓練などの支援の方法や雇用制度の今後について報告しました。
その結果、日本の学校教育はアカデミックな内容が中心であり、職業に関するものは終身雇用制度を前提とし、就職後のOJT(On the Job Training)で覚えることが従来からの形態となっている。しかしこれは企業に負担が大きく、近年では企業の教育にかける経費削減などから機能しないことが多くなってきている課題があげられました。
震災以降、新たに職業を見つけることが難しいことなどからも、労働者の自由な職業転換のために誰もが学べる職業訓練や生涯教育を定着させることが重要であり、現在の職業に関するものだけではなく、次の職業に生かすことのできる知識や技能を獲得する職業訓練(生涯教育)のできる環境作りが必要なことを提起しました。
また、ディスカッションでは生涯教育の先進地であるスウェーデンの研究者から、生涯教育の現状を伺うこともでき、大きな示唆を得ることができました。
本学研究科の海外学会発表渡航費援助事業による今回の海外発表と現地視察は、今後の研究活動の実績に繋がるものになったと感じております。心よりお礼申し上げます。

進藤 将敏 / 人間発達研究コース・博士課程後期
学会名:
International Society for the Study of Behavioral Development 2012 Biennial Meeting
期間及び渡航先:
2012年7月8日~7月12日 エドモントン(カナダ)
タイトル名:
Young Children’s Drawing from a Planning Perspective: A Developmental Study
学会で発表した内容:
本学会では幼児期の子どもにおける描画発達に関する研究題目として“Young Children’s Drawing from a Planning Perspective: A Developmental Study”をポスター形式で発表しました。従来の描画発達研究では描画表現が年齢と共に発達的に変化して行くといった現象は捉えられてきたのですが、なぜそのような現象が起こるのかといったメカニズムについては明らかにされてきませんでした。私の研究はその解明に寄与する研究として位置付けられています。このような研究を今後突き進めることによって、子どもがどのような認知能力を発揮して絵を描けるようになるのか、あるいは絵を描く過程の中でどのようなことを意識しながら描けるようになるのかといった、子どもの描画の構成能力の発達に関する正しい見方や評価に貢献するものと思われます。発表当日は、とりわけ子どもの造形活動に関心をもつ研究者をはじめ、多くの海外の方々に私の研究について関心を持っていただきました。また、関連領域の研究者との活発な意見交換や交流の場となり、国内での学会以上に研究のモチベーションが高まったことに加え、今後の研究の手がかりを得たことが大きな収穫として挙げられます。最後に、本学研究科の海外学会発表渡航費援助事業により、海外での貴重な経験を積むことができましたことを心よりお礼申し上げます。

平川 久美子 / 人間発達研究コース・博士課程後期
学会名:
International Society for the Study of Behavioral Development (ISSBD) 2012
期間及び渡航先:
2012年7月7日~7月14日 エドモントン(カナダ)
タイトル名:
The Understanding of Assertive Emotional Expressions in Young Children : On the Expressions of Anger(幼児における主張的な情動表現の理解:怒りの表現に着目して)
学会で発表した内容:
私は大会5日目に“The Understanding of Assertive Emotional Expressions in Young Children : On the Expressions of Anger(幼児における主張的な情動表現の理解:怒りの表現に着目して)”という題目でポスター発表を行いました。今回の国際学会での発表の成果として、第一に、自分の研究の成果について他の研究者と議論したことで、自分の研究における今後の課題が明確になったということが挙げられます。第二に、英語で研究発表をしたことで、プレゼンテーションスキルを高めることができたということです。ポスターやハンドアウトの作成では、自分の研究をいかに分かりやすく説明するかということを意識しながら作業を行いました。当日の発表はもちろんこのような発表の準備段階においても、学ぶことが非常に多かったと感じています。
私は、今回初めて国際学会で発表を行いましたが、今回の経験を糧に今後も国内外の学会で積極的に発表を行いたいと考えています。東北大学教育学部同窓会の海外学会発表渡航費援助によりこのような貴重な経験が得られたことに、心より感謝申し上げます。

2011(平成23)年度

斉藤 仁一朗 / 教授学習科学研究コース・博士課程後期3年・日本学術振興会特別研究員
学会名:
National Council for the Social Studies (NCSS)第91回大会
期日:
2011年12月2日~12月3日
タイトル名:
Considering citizenship education in the global age: From the early 20th century perspective(グローバル時代におけるシティズンシップ教育の考察―20世紀初頭の視点から―)
学会で発表した内容:
本発表は、23年度に米国のワシントンDCで開催された米国最大の社会系教科の学会において、現代のグローバル化が進展する時代の新しいシティズンシップ教育の構想を論じたものです。その際の方法論として、第一に、20世紀初頭のアメリカの教育で多く見られるようになった「コミュニティ」という概念とシティズンシップ教育の関係を分析し、第二に、当時のシティズンシップ教育におけるコミュニティの捉え方を理論抽出し、第三に、その理論の現代への適用可能性を考察するという三段階の方法をとりました。
これらの分析から得られた結果は、グローバル時代のシティズンシップ教育を論じる場合、国家と世界とを二項対立的構造として捉えるシティズンシップ教育や、普遍的なグローバル市民として態度を育成しようとするシティズンシップ教育よりも、子どもたちの日々の生活の様々な場面がグローバル、国家、地域、などの多様なコミュニティの問題・関心と関連していることを学習することが重要であるというものです。また、これらのシティズンシップ教育の捉え方は、近年の教育論よりも、20世紀初頭のアメリカに多く見られる考えであるため、当時の理論を現代に再構成して考えべきと論じました。
当日の研究発表の場では、米国研究者を含む、韓国、シンガポールなどの多様な国々の研究者とも議論をすることができました。そして、その大会参加を通して、24年度の同大会(92回大会)で米国研究者と共同発表することが決まりました(査読済み)。このように今回の学会発表及び学会参加を通して、国際的な研究に関する交流が多く行えたと考えます。また、大会翌日には、資料収集のために、ニューヨークにあるコロンビア大学を訪れました。
また、本学研究科の海外学会発表渡航費援助事業により、今回の海外発表をすることができました。そして、今回の国際発表の経験は、今後、自分が国際的な研究活動を続けていく第一歩になったと思っております。本当にありがとうございました。

長田 健一 / 教授学習科学研究コース・博士課程後期3年
私は、2011年12月2日~4日にアメリカのワシントンD.C.で開催された「第91回全米社会科教育協議会年次大会」(91st NCSS Annual Conference)にて発表を行って参りました。同学会(NCSS= National Council for the Social Studies)は、社会科教育に関するアメリカの全国学会で、大会には全米のみならず世界各国から研究者や実践者が集って来ます。そのため、世界各国からの参加者が発表を行うラウンドテーブル・セッションが設けられており、私もそのセッションで発表しました。
発表題目は、「多元的シティズンシップへの道筋としてのコミュニティ・シティズンシップ:震災を教材とした授業計画」(Community Citizenship as a Path to Pluralistic Citizenship: A Lesson on the Earthquake/Tsunami Disaster Issue)。これは、東日本大震災での人々の経験をアイデンティティの視点から教材化し、多元的シティズンシップ(市民性)の育成をねらう授業計画を開発・提案したものです。先の震災は、日常の関係性を越えて他者を助けようとする無数の行為を生み出しましたが、日本に限らず世界に共通して見られるこのような現象は、人々が国籍などある特定の帰属意識を超えて、より普遍的なアイデンティティを発現させ得ることを示しています。その一方、職業や地域コミュニティなど、より特殊な特定の帰属・アイデンティティに立脚する行為―さらにはそれに伴う心理的葛藤―もまた多数見られました。このように人間のアイデンティティは多元的であるが故に、状況に応じてアイデンティティのある側面を優先的に発現させたり、複数の側面の間で生じる競合や矛盾に葛藤することがあります。本発表はこうした点に着目し、アイデンティティの多元性に基づく多元的シティズンシップの可能性と課題を探究しゆくため、多様なコミュニティに対する人々の関わりの有り様を多面的に理解させることを主なねらいとした一連の授業計画を開発・提示しました。
同学会での日本人研究者の発表は、まだ少ないのが現状です。日本からの発信を後押ししてくれた海外学会発表渡航費援助事業に心から感謝申し上げます。

2010(平成22)年度

申 育誠 / 教育政策科学研究コース・博士課程後期3年
学会名:
第五回東アジア大学院生国際シンポジウム及び比較教育古典名著フォーラム
期 日:
2010年4月29日~2010年5月2日
タイトル名:
A study on Dowa Education in Japan
学会で発表した内容:
海外発表については、第五回東アジア大学院生国際シンポジウム及び比較教育古典名著フォーラムで日本における人権教育に関する問題点を究明した。その内容について、人権教育は「人権教育のための国連10年」の導入によって、教育内容や指導法が多様に展開されるようになった。
本研究では、制度面から1950年代から現代までの同和教育と人権教育との歴史経緯を明らかにすることで概観的に探究したが、地域での実態を踏まえた具体的な検討は今後の研究課題として残したいと思う。今回の発表では、皆様から今後の研究についての良いアドバイス・ご意見多くいただき、非常に勉強になった。この貴重な経験を今後の研究に活かしていきたいと思う。そして、本学研究科の海外学会発表渡航費援助事業により今回の海外発表を行うことが出来、心よりお礼申し上げる。

新川 壯光 / 教育設計評価研究コース・博士課程前期1年
学会名:
The Third Asia Pacific Educational Research Association Conference (APERA2010)
期日:
2010年11月23日~26日
タイトル名:
Redefining zest for living through the Western concept of key competencies-Background and challenges of Japanese high schools(キー・コンピテンシー概念と日本の高校の挑戦を通しての「生きる力」の再定義)
学会で発表した内容:
参加した大会は「人間の成長と持続可能な社会発展のエコロジー」を大会テーマとし、香港・マレーシア・シンガポールが中心となってアジアの教育を研究するものでした。
本発表ではシュリーマンやロリーンといった海外の研究者が紹介した日本の伝統的な強みについて説明した上で、今日必要となっている「生きる力」を始めとした新たな学力観と中等教育システムを紹介し、その実現のために努力している東北地方の高校の実践について報告を行いました。その上で日本の高校教育の抱える課題を示し、単なるトップダウン型でない、中央からの呼び水政策を生かした上でのボトムアップ型の学校づくりが必要であることを提案し、そのために大学と学校が協力して、「生きる力」を日本独自の新しいキー・コンピテンシーとして昇華していく必要があるとの展望を示しました。
初めての海外での学会発表でしたが、博士前期課程1年で経験できたことから、その経験を生かし、2年でも再度国際学会で発表を行い、その際には論文の学会誌への掲載にまで繋げることができました。本発表は指導教員の後押しと本学研究科の海外学会発表渡航費援助事業がなければ実現しなかったことであり、研究キャリアの初期に貴重な経験を積ませていただいたことを心よりお礼申し上げます。

2008(平成20)年度

董 存梅 / 人間発達研究コース・博士課程後期3年
学会名:
International Society for the Study of Behavioural Development(ISSBD)第20回大会
期日:
2008年7月13日~7月17日
タイトル名:
The Cross-Cultural Comparison of Development of Self-Regulation in Interpersonal Situations between Japanese and Chinese Young Children(幼児の対人関係における自己制御の発達に関する日中比較研究)
学会で発表した内容:
本発表は、日本と中国の4、5歳の幼児166名を対象とし、幼児の日常生活における対人場面を描いた図版を用いて、「子ども―子ども」「子ども―保護者」「子ども―保育者」関係における日中の幼児の自己制御反応の特徴を比較しました。また、「子ども―子ども」関係における幼児の自己制御反応は幼児の自己制御についての保育者評定とどのような関連があるのかを検討しました。
その結果、幼児の自己制御反応の特徴が対人関係によって異なることが明らかになりました。すなわち、日本の幼児は中国の幼児に比べて、大人との間の葛藤場面においては自己抑制反応を多く示し、子どもとの間の葛藤場面においては自己主張反応を多く示しました。一方、他者依存反応については、対人関係にかかわらず中国の幼児が日本の幼児より多く示し、子どもとの間の衝動行動反応でも、中国の幼児が日本の幼児より多く示しました。また、実験場面における幼児の自己主張反応と幼児の言語的主張、自己抑制に関する保育者の評定とが関連しました。この結果は、日中の社会文化的背景が親の養育方法と保育者の働きかけを規定し、幼児の自己制御の発達に影響していることを示していると考えられます。
また、本学研究科の海外学会発表渡航費援助事業により、今回の海外発表は進めやすく、今後世界で研究活動を続けていく窓口になったと思っております。心よりお礼申し上げます。

2007(平成19)年度

劉 語霏 / 教育政策科学研究コース・博士課程後期3年
学会名:
第18回「日本国際教育学会」海外大会・「台湾・日本国際経験学術研討会」
期日:
2007年11月23日~11月24日
タイトル名:
「後期中等教育における就業体験教育の日台比較研究―『デュアルシステム』の政策分析―」
学会で発表した内容:
本発表は、ドイツの「デュアルシステム」をモデルとした「日本版デュアルシステム」と「台湾版デュアルシステム」を取り上げ、それぞれの導入の経緯を明らかにし、両者の内容の共通点と相違点を分析することによって、後期中等教育の就業体験教育における「デュアルシステム」の意義と問題点の究明を目的とする。
日台の導入形態を実施方針に着目してみると、学校教育の一環として実施された「日本版デュアルシステム」は「教育訓練機関主導型」に属し、教育的な意味を持ち、訓練よりも教育への配慮が大きい。それに対して、学校体制外の教育として導入され、企業を中心にする「台湾版デュアルシステム」は「企業主導型」に属し、訓練的な意味が大きい。そこで、実施に伴い、「日本版」は企業との連携関係の維持や教員の多忙化等、学校での課題が多いが、「台湾版」は企業側の意識の問題や廉価労働人力の問題等、企業での課題が多い。つまり、導入形態の違いにより、それぞれが独自の課題を持っている。
一方、共通する課題は、高学歴重視の社会意識に起因する「デュアルシステム」に対する国民の理解の不十分さである。従って、高学歴重視という特徴がある東アジア圏の国々では、後期中等教育の就業体験教育における「デュアルシステム」の普及の可能性を探る際にドイツの社会や労働体制との相違を考慮しなければならない。

内田 知宏 / 臨床心理研究コース・博士課程後期1年
私はスペインのバルセロナで、7月11日から14日まで開催された世界認知療法学会 (World Congress of Behavioral & Cognitive Therapies;WCBCT2007)に参加し、研究発表を行ってきました。本大会には、3000人以上の人が70以上の国から参加しており、医療系や福祉系の施設などで臨床活動をされている方から学生や研究者まで、CBT(認知行動療法)に関する様々な発表に耳を傾け、議論に花を咲かせていました。
私は今回、大会3日目のAdult Psychosisのセッションで“Cognitive insight in Japanese healthy volunteers: An investigation using Beck Cognitive Insight Scale”というテーマでポスター発表を行いました。「認知的洞察」という、健常者や精神障害の方々の洞察力を認知的側面から評価する研究です。最近では、認知療法的な意味での認知(ものの捉え方のパターンとしての認知過程)を評価する試みが盛んになってきており、病識欠如や精神病症状など、現象として現れる問題の基盤にある認知過程を明らかにする必要性が高まっています。特に、統合失調症においては、病識あるいは自らの疾病についての洞察力は、患者の治療アドヒランス、リハビリテーション、社会参画、精神病症状形成、予後に影響する可能性が示唆されており、この問題に取り組んでいくことは、統合失調症に対する医療の発展にはぜひとも必要であると考えられます。
実際に、自分の研究に興味を持ってくださった方もおり、世界の研究者とディスカッションをすることができました。私の発表を見に来てくれた方々には、自分の研究に興味を持ってくださったことにとても感謝するとともに、こちらとしても非常に貴重な経験になったと思っております。発表を通して、自分が日々取り組んでいる研究テーマの世界における位置づけ、そして意義を改めて認識することができました。
このような体験ができた事も、私の研究を支えてくださった先生方、そして本学研究科の海外学会発表渡航費援助事業のおかげです。本当にありがとうございました。


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