東北大学における指導学生の卒業・修了研究
このページは、上段に〔こんな研究が出来ます!〕
下段に〔実際の卒論・修論・博論〕が掲載されています。
〔こんな研究が出来ます!〕
卒業論文や修士論文の一覧を見ても、よく分からないという声もありましたので、谷口研究室に来たらこんな研究ができますという説明を書きます。
①学校の授業や学力について考える
もともと谷口は、全国でも数少ない教科教育学者です。授業で教えるとは学ぶとは、よい授業や年間計画はどのように立てたらよいのか?子どもの学力を伸ばす授業はどのようになるのか?について専門的に学ぶことが出来ます。
授業や学力について考えると言っても、心理学のように「授業でおきる、ある一部分」を取り出して繰り返し研究したり、設計評価のようにたくさんのテスト結果を数値化したりするのではなく、「授業そのものをどう考え、どうつくるか?」に焦点を当てて考えています。実際に、谷口自身、東京や宮城県下のいくつかの中学・高校にお邪魔して授業をやったり、実際の授業やテスト問題を提供して使用してもらっています。いわゆるHow toの教育法ではなく、実際に面白くてためになる授業のあり方を模索しています。
そのための研究法としては、(1)理論的に教育目標から「あるべき授業」を論じ、実際の授業として提案していく方法、(2)実際の授業や古今東西のよい授業の原理を引き出して解明する方法、(3)授業を作成しテストを作成し、その結果から授業を修正していく方法、などが考えられます。
②新しい教育分野や方法について考える
先ほど、「授業そのものをどう考え、どうつくるか?」と述べ、「(2)実際の授業や古今東西のよい授業の原理を引き出して解明する」と述べました。その結果として、1980年代後半からさかんに開発された多文化教育、グローバル教育、ジェンダー教育などの授業実践や理論書も、研究室にはたくさんあります。また、近年ですと、シティズンシップ教育なども注目されています。
谷口は、永年、これらの教育を推進する先生方とお付き合いをさせていただいてきましたし、実際に、環境科学研究科等で、ロールプレイ、シミュレーション・ゲームなどの新しい教育方法に基づく授業を行ってきました。さらに、国際学会では、これらの分野の最先端の研究者に混じって発表を続けてきました。これらの分野に興味がおありの方は、谷口研究室で研究することをオススメします。
③歴史的に教育を考えてみる
谷口は、『昭和初期社会認識形成の史的展開』というタイトルで博士号を取りました。現在も歴史的研究のような著書を数多く執筆しています。一方、日本教育史、外国教育史に関しては、加藤先生をはじめ人間形成論講座にすばらしい先生がいらっしゃいます。これに対して、谷口の研究はどのように違うのでしょうか?
ひとことで言いますと、谷口の研究は「現代的視点、現代の教育問題を考えるために歴史をふりかえる」という立場です。先の『昭和初期社会認識形成の史的展開』でも、当時のことに思いをはせると言うよりも、「社会科の授業やカリキュラムは、どのような形で存在が可能で、それぞれのタイプにはどのような問題があるのか?」ということを、多様な「社会科的」授業が提案された時代の様子を探ることによって明らかにしようとしたものです。つまり、興味関心は、「今の社会科の授業をどうするか?」にあります。それぞれ良さがあり、立場があるのです。
ですから、もし、「当時の時代や思想の中で考えてみたい」なら人間形成論に、「今の教育についてのヒントを得たり、問題点を明らかにしたい」なら、谷口研究室でしょうか?
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〔これまでの先輩方の研究です〕
〔卒業論文題目〕
2011年度4年生(現在執筆中)
- 英国における人格教育の成立と展開
子どもたちの社会的スキルやコミュニケーション能力が低下している現状において、どのようなアクティビティを通してこれを復活させるのか。イギリスにおけるPSHE(Personal Social and Health Education)の時間に着目し、なぜイギリスでのこの種の教育が必要とされたか、実際の授業はどのようにすすめられるか、日本においてどのように取り入れることが出来るか、を考えた研究。
2010年度・卒業論文
- 「問いの展開」からみた社会科授業の改善
暗記主義を脱却し、先生が問題を追究するような授業を作っても、なぜか、子どもはその「問い」に興味を示さない。社会科において追究される「問い」を、教師の「発問」と子どもの「疑問」にわけ、さまざまな授業において、どのように教師の「発問」と子どもの「疑問」が関連付けられ発展しているか、何が「面白くない」授業と感じさせているのかを、さまざまな授業を詳細に分析しながら明らかにした研究。
2009年度・卒業論文
- 民主主義社会における市民的資質育成のための歴史教育―K.O'Reillyの『アメリカ史における批判的思考』を手がかりに―
子どもに考えさせることの出来る歴史の授業はどうするのか?アメリカの実践を参考に、子どもが歴史の資料を読みながら、これを批判的に解釈し、自分の意見を作り上げるような歴史の授業を考えた研究。 - 教師の「授業力」向上に関する研究―教師のライフヒストリー調査及びインタビューを通して―
先生の中にも自分の授業をどんどん発展させていこうとする人と、昔ながらの授業にとどまる人がいるのはなぜか?それを調べるために、いくつかの学校に1年間通い、また、先生方にもインタビューしてその違いを明らかにしようとした研究。
2007年度・卒業論文
- 大正期における女性教員の位置付けに関する考察―教員養成制度の改革を通して―
大正時代、女性が社会のいくつかの職業に進出してきた頃、小学校の女の先生はどのような役割を期待されるようになったのか?当時の女性教員養成の考え方の変化から明らかにした研究。
2006年度・卒業論文
- 日本の学校教育段階における性教育論の分類と論点の分析
「過激な性教育」が話題になった頃、日本の学校において性教育はどのような観点から行われてきたか、分類を行い、それぞれの特徴と問題点を明らかにした研究。
2005年度・卒業論文
- 資料批判の技能としての社会科における「批判的思考」育成原理―『アメリカ史における批判的思考』を手がかりとして―
「批判的思考」をキーワードにして、子どもたちが資料を解釈し、自分の意見を作り上げるような教育のカリキュラムについて明らかにした研究。 - 1980年代以降のアメリカにおけるキャリア教育の実際―オレゴン州を事例に―
キャリア教育は、単なる職業指導教育とはどう違うのか?どのように子どもの行き方を形成していくのか。アメリカの先進事例であるオレゴン州を研究して、日本のキャリア教育に提言をした研究。 - 子どもたちのスポーツ環境改善のための学校―地域連携―実践例の調査と分析をもとにして―
学校だけでスポーツ活動を抱えずに、地域のスポーツや民間のスイミングスクールなどと協力して多様なスポール活動の展開をする。多賀城市や気仙沼市の事例を取材しながら、学校・地域・民間の協力によるスポーツ活動のあり方を考えた研究。
〔修士論文題目〕
M1在学生の研究
- 多文化共生社会における国際理解教育の研究
1980年代に流行した国際理解教育であるが、当時の「他の国の文化の理解」の時代を超え、現在は、新しいステージに入っている。すなわち、従来のオールドカマーに加え、新たに外国人労働者などのニューカマーが増加し、地域によっては国際理解は切実な課題となっている。本研究は、地域の背策および学校内の実践の両方を視野に入れ、イギリスのブラッドフォードや、日本の川崎市などの先進事例を分析し、地域社会の施策と学校教育がどのように連動して、多文化共生社会を前提とした国際理解教育政策の構築をおこなうべきかを明らかにしようとしているものである。 - 社会科教育内容構成論に関する方法論的考察
学習指導要領が変化し、新しい社会科授業理論が研究者によって提唱されても、実際に学校現場に大きな影響を与えるのは、「新しい社会科教科書がどう変わったか」である。しかも、学習指導要領の考えを教科書に具体化する中で、さまざまな内容の選択や教授法的な工夫が施される。このような考えから、本研究は、社会科教科書をカリキュラム論の視点から分析し、どのような論理の組み合わせによって教科書が成り立っているか、また、どのように教科書を変えれば現場における社会科授業実践が変わるのかを明らかにしようとしている。 - 歴史教育における実験的授業内容開発
日本における歴史教育実践をどのように改善するのか?本研究は、現在、これまでのさまざまな歴史教育実践分析の先行研究を類型化して、「理論開発」と「授業実践」を往復させる実験的授業内容開発の手法に着目した。その上で、「理論開発」―「授業実践・テスト問題の一体的開発」―「授業実践・テスト」―「理論の修正発展」をサイクルとする実験的授業開発手法の提案をおこなっている。
2008年度・修士論文
- 近代日本の学校教育における家庭科関連科目成立過程
「女性は女性としての特質を活かし、男性と同等の働きをする」という少し前まで、広く論じられてきた女性の自立観はどこから来たのか?本研究は、「家庭科関連科目」という単独で論じられてきた分野の研究を、広くカリキュラム全体から読み取れる女性教育の転換について論じたものである。本研究はで、江戸時代の儒教的な女性教育観から「近代」的な女性教育観に転換する時期を、これまでの明治30年代から明治20年代の「裁縫」科の成立に求めた。その上で、明治期の女性教育カリキュラムの変遷が、どのような女性像を形成してきたかを明らかにしたものである。
2005年度・修士論文
- 市民的資質育成における意思決定過程―子ども自身による意思決定の合理性の捉え方に着目して―
イデオロギー中心の社会科教育における価値教育が、新社会科の影響を受けて科学的な探究としての社会科を提唱しはじめたのが1970年代後半である。しかしながら、科学的な視点から社会を見ることは出来るようになっても、社会的な論争問題に関して価値判断を下すには、相応の技能が必要となる。本研究は、社会科における価値観形成の問題を、1960年代のハーバード大学において開発された合理的意思決定能力の育成の授業を参考にして論じたものである。 - 我が国における『新しいタイプの学校運営』に関する研究―学校運営への保護者・地域住民の参加の視点から―
2000年代に入って日本においても保護者や地域が学校運営に参加する新しいタイプの学校運営が導入された。多くの場合、学校の経営方針を話し合う「学校評議員会」であるが、一部では、もっと直接的に学校経営に携わる「学校運営協議会」の形式を導入していることもある。本研究は、実験的におこなわれた研究指定校の「学校運営協議会」を実際に調査に行き、多様なタイプの学校運営のあり方や地域連携のあり方について論じたものである。
2004年度・修士論文
- アメリカグローバル教育に見られる『グローバル市民観』の変遷―CTIRのプログラムを手がかりに―
アメリカでグローバル教育を牽引してきたコロラド大学のCTIR(Center for Teaching International Relations)は、1980年代「あまりに多文化・多民族に偏っている」として批判を受けた。これを機に全米規模でグローバル教育の問い直しがはじまった(デンバー論争)。本研究は、その後のナショナルスタンダードにも影響を与えた、デンバー論争時のグローバル教育観の変遷によって、その前後で当事者のCTIRのグローバル教育がどのように変化したかを論じたものである。
〔博士論文題目〕
2010年度現在執筆中
- 昭和戦前期郷土教育におけるカリキュラム改造と村内教育体制構築の構想
これまで、郷土教育や村内教育体制は、文部省や内務省による「官製」のものと、綴り方教師らに代表される「左翼的」教師らの実践の二項対立的に論じられることが多かった。しかしながら、主として農村における郷土教育実践を詳細に検討すると、「臣民」というよりは村内の次世代を担う青年育成をめざし、独自の教育を展開していることが伺える。さらに、当初、「郷土科」か「郷土化」かという学校今日憂い句におけるカリキュラム改造の問題として論じられていたものが、次第に、農村の自力更生をめざして、実業補習学校や村会と連携し、ひとつの全村的な村内教育体制を築くようになった。本研究は、このような1920~30年代の農村部における郷土教育の変遷に着目し、日本における近代化と既存体制の保持がどのようなバランスでおこなわれたかを明らかにするものである。
2009年度・博士論文
- 学校教師の職能発達に関する研究―社会科における授業研究法の開発―
本研究は、社会科教師がそのキャリアの中で職能発達をするきっかけを明らかにし、それに即したOn the Job Trainingのあり方を提唱した研究である。2000人の社会科教師に対するアンケートと共に、8人の社会科教師のライフ・ヒストリーを聞き取り記述・分析する、最新の質的研究法を駆使して、社会科教師の職能発達要因を明らかにした。その上で、本研究は、このような職能発達を促す要因を利用しつつ、一般教員が学校の中で同僚教師とおこなうことの出来る研修の方法を提唱したものである。
2008年度・博士論文
- 韓国における道徳科成立過程の研究―1945~1973年のカリキュラムを中心に―
本研究は、韓国における社会科および道徳科関連のカリキュラムが、どのように形成され変化し、または分化、統合を繰り返したのかを明らかにした研究である。韓国の社会科教育カリキュラムに関する研究は、広島大学において韓国人研究者の手による佳作があるが、本研究は、この研究を、さらに道徳科やイデオロギー教育まで視野に入れて広範囲での社会科関連カリキュラムを論じることで、韓国のカリキュラム変遷を明示したものである。作者は日本人であるが、韓国留学の経験と、たびたびに渡る韓国渡航による緻密な資料収集に基づく、本格的な研究を行っている。
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